成年後見制度を利用する際の注意点とは?遺品整理を後見人に任せる方法
高齢化社会となり、老化や認知症などによって判断力の衰えや低下などがもたらされる方も多くなってきています。
内閣府の出している「平成29年版高齢社会白書」によると、65歳以上の認知症高齢者数は、2012年のデータでは462万人であり、高齢者の7人に1人でしたが、2025年には約5人に1人になるとの推計もあります。
・参考 http://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2017/html/gaiyou/s1_2_3.html
このような判断力の低下に備えた制度として、成年後見制度があります。
ただ、成年後見制度にも種類があり、それぞれ活用できる場面は異なることに留意しなければなりません。
ここでは成年後見制度の内容と、後見人に遺品整理を任せるときの注意点について解説します。
1.成年後見制度の仕組みとは
(1)判断力の低下に備えたサポート
成年後見制度とは、認知機能や思考、判断力の低下に備えて、予め意思決定のサポート役を任命しておける仕組みをいいます。
法律上定められた申立人が家庭裁判所で申し立てることにより、成年後見人が就任します。
例外を除いて、被後見人(サポートを受ける本人)が結んだ契約を後見人が取り消せたり、被後見人の行為につき広い範囲で代理を行えたりといった効果があります。
(2)法定後見と任意後見
成年後見制度には、大きく分けて法定後見と任意後見の2つがあります。
法定後見制度は民法に定められた仕組みであり、サポートを受ける本人の能力低下の度合いに応じ、さらに3つに分けられます。
・成年後見:もっとも程度が重い
・保佐:中くらい
・補助:もっとも程度が軽い
これに対し、任意後見制度は任意後見契約法に定められた仕組みです。
本人が任意後見契約という契約を結び、自分の生活や療養看護、財産管理などのサポートを委任するものです。
法定後見は判断能力が低下してから利用できるのに対し、任意後見制度は判断能力の低下する前から利用できるといった点で異なります。
(3)本人が備える仕組みとしての任意後見制度
判断能力の低下に備えて本人が行うのが任意後見契約であり、任意後見人を選定し、公正証書を作成するという手続きを踏んで締結します。
私的な契約の内容は、犯罪に当たらない限り自由に取り決められるのが原則です。
ただし、結婚や離婚といったその人の身にのみ専属する権利は、任意後見人に委ねられないことに注意が必要です。
(4)類似の仕組み
成年後見制度と類似の契約もあり、同制度では手の届かない部分を補っています。
財産管理委任契約は、判断能力のみに限定されず、身体能力の低下にも備えることが可能な契約です。
死後事務委任契約は、本人が亡くなった後の財産管理などを委任できるという点に特徴があります。
当人の求める法的効果に応じて制度や契約を使い分けることが大事です。
2.成年後見制度の役割と注意点
(1)どのように役立つか
成年後見制度のメリットとしては、以下の通りです。
- 成年後見人(保佐人・補助人)の地位が公的に証明できる
- 判断能力が低下しても財産管理などを行える
- 契約の取消しなどによりトラブルを回避できる
成年後見人等は本人の意思決定をサポートする役割を果たすので、契約を結ぶ前なら代理などによって、契約の締結後なら取消しによって、それぞれ本人を保護します。
制度として法律に規定されている仕組みであるため、成年後見人等の地位を第三者に対して証明できるというのも利点といえるでしょう。
(2)注意すべき点について
ただ、成年後見制度も万能ではありません。以下のような注意点があります。
- 本人の死後の処理は委任できない
- 任意後見制度は法定後見制度と異なり取消権を有さない
- 手続きに時間を要するため迅速性に欠ける
- 補助以外の法定後見制度の場合、一定の資格制限がある
これも当人にとって何が必要なのかを考えた上で、法定後見か任意後見か、その他の委任契約とするかを決めるべきです。
(3)成年後見制度を利用した場合の費用
法定後見人制度の場合、費用の内訳としては主に申立手数料と登記手数料、郵便切手や鑑定料などが挙げられます。
申立手数料に800円、登記手数料に2600円、鑑定料に10万円以内を要します。
また、戸籍謄本や登記事項証明書の請求にも費用が掛かります。
任意後見人制度の場合、費用の内訳としては公正証書作成費、登記嘱託費、印紙代が掛かります。だいたい2万円ほどです。
3.遺品整理と成年後見制度
(1)本人の死と成年後見の終了
遺品整理も成年後見人等に任せられないか、と考える方もいるでしょう。
ところが、成年後見は本人の死によって終了するため、遺品整理を始めとする死後事務には、成年後見人は原則として関与できません。
これは法定後見でも任意後見でも同様です。
遺品整理に関わるのであれば、上述した死後事務委任契約も同時に結んでおく必要があります。
(2)後見人のできること
葬儀費用・埋葬費・未払医療費については、例外的に成年後見人も関与することが可能とされています。
したがって、それ以外の支出については相続人が対処すべきこととなります。
(3)確実な遺品整理のために
成年後見制度を利用するのは、元々身近に相続人がいないからということも多いものです。
成年後見人等では、相続人の不存在に対応できません。
財産や遺品を確実に処理したければ、生前に弁護士などと死後事務委任契約を結んでおくといいでしょう。