生前「遺品を寄付・寄贈して」と言っていた、どうしたらいい?

もし故人が生前に、自分の金品や物品を死後に寄付・寄贈してほしいと言い残していたら、遺族はどうしたらいいのでしょうか。

故人の遺志を確認できない場合でも、遺族が「寄付・寄贈したほうがいい」と判断したら、どこに、または誰に遺品を譲渡したらいいのでしょうか。

ちなみに、金品を譲り渡すことを寄付といい、物品を譲り渡すことと寄贈といいます。

遺産を困っている人や社会に役に立てる方法を考えてみましょう。

減らす効果もある

遺品や金品などを寄付・寄贈すると、実質的なメリットも得られます。

相続財産を国や地方公共団体、または特定の公益法人に寄付・寄贈すると、相続税の対象にならないのです。その分、支払わなければならない相続税が減額されるわけです。

相続税は、故人から遺品や相続財産を引き継いだ相続人(配偶者や子供など)が支払う税金のことです。相続税の額は次の計算式で算出します。

・(相続した財産の価値-借金や債務などのマイナス相続財産-葬儀費用)×税率

この計算式からは、相続した財産の価値が小さくなるほど、相続税が低額になることがわかります。金品のなかには生命保険や退職金も含まれます。

ただし、相続税を減らすためには、税務署に申告しなければなりません。

遺族が遺品や金品の寄付・寄贈を検討する場合、相続税の支払いについても併せて考えたほうがいいでしょう。

日本赤十字社に寄付・寄贈をする

もし故人が遺品や金品の寄付・寄贈先を指定していなかった場合、日本赤十字社に譲り渡してはいかがでしょうか。

日本赤十字社は「あなたの『救いたい』思いを赤十字に~遺贈・相続財産の寄付ご案内パンプレット」をつくり、寄付・寄贈を呼び掛けています(*)。

http://www.jrc.or.jp/contribute/pdf/pamphlet_170207.pdf

日本赤十字社の母体である赤十字という団体は、第1回ノーベル平和賞受賞者のスイス人、アンリー・デュナン氏が創設しました。「苦しんでいる人がいたら、敵味方の区別なく救う」ことを使命にしています。赤十字社は日本を含め世界189の国と地域にあります。

自分の死後に財産を日本赤十字社に寄付・遺贈したいと考えている方は、公正証書遺言を作成することをおすすめします。公正証書遺言とは、公証役場という機関で証人2人以上の立ち合いのもとで作成する遺言書のことです。遺言書の原本が公証役場に保管されるので、改ざんされたり破棄されたり偽造される心配がありません。

公正証書遺言で「財産を日本赤十字社に寄付・寄贈する」と記載しておけば、法定相続より優先されます。

日本赤十字社は、国内で災害が発生したときに救護活動を行ったり、血液センターや献血事業を運営したり、紛争地域での国際的な支援活動も行っています。

日本赤十字社への寄付・寄贈は、故人の財産の有効な使い道といえそうです。

ユニセフの寄付・寄贈する

故人が国際的な事象に関心がある方であれば、ユニセフに寄付・寄贈する方法もあります。

ユニセフは国連児童基金といいます。「基金」というと「お金の集り」というイメージがありますが、ユニセフは子供の命と権利を守る国際連合(国連)の機関でもあります。日本には日本ユニセフ協会という団体があります。ユニセフ協会を持っている国はG7を含む34の国と地域だけです。

ユニセフの活動は、乳幼児のケアなどの保健、HIV・エイズ対策、水と衛生、子供たちの栄養の確保、教育、児童労働や児童への暴力などからの保護などがあります。

ユニセフも日本赤十字社同様、遺品や金品の寄付・寄贈を呼び掛けています(*)。

https://www.unicef.or.jp/cooperate/coop_inh1.html

日本ユニセフ協会では、自分の死後に寄付・寄贈を考えている方に、「遺言執行者」の指定をすすめています。遺言執行者とは、故人の遺言を確実に実行する専門家のことで、普通は弁護士や司法書士、行政書士、税理士、信託銀行の担当者たちが担当します。第三者が介入することで、遺言が着実に実行されます。

また日本ユニセフ協会でも、遺言書の作成は公正証書遺言をすすめています。

故人が明確な遺志を示していない場合でも、遺族たちの総意で相続財産を日本ユニセフ協会に寄付・寄贈することができます。

その場合、家族が亡くなってから10カ月以内に手続きをする必要があります。その間に家庭裁判所に相続放棄の手続きをしたり、税務署で相続税を減らす申告をしたりしなければなりません。

なお日本ユニセフ協会に寄付・寄贈を行うと、ユニセフ事務局長と日本ユニセフ協会会長の連盟で感謝状が授与されます。

社会貢献寄付信託という方法

もし多額の相続を受けた遺族が後日、「やはり相続した財産をどこかに寄付・寄贈したい」と考えた場合、信託銀行が行っている社会貢献寄付信託を活用する方法もあります。

例えば以下のような信託銀行の社会貢献寄付信託なら、WWFジャパン(世界自然保護基金ジャパン)、日本生態系協会、日本ユネスコ協会連盟、日本対がん協会、京都大学iPS細胞研究所、日本盲導犬協会、国境なき医師団日本、日本芸術文化振興会などに寄付することができます(*)。

*https://www.smtb.jp/personal/entrustment/management/contribution/contribution-list.html

社会貢献寄付信託は、信託銀行が運営している「信託商品」ですが、もちろん財産は増えません。毎年1回、元本の5分の1を、希望する団体に寄付していく仕組みです。

寄付金の領収書が送られてくるので、節税対策に使うこともできます。

まとめ

遺品や金品などの相続財産を「どこか」や「誰か」に寄付・寄贈することは、人と社会の役に立つ、最も直接的で効果的な方法といえるでしょう。

もし自身の財産を死後に寄付・寄贈したい場合、家族に口頭で伝えるだけでなく、専門家に相談して手続きを取っておくことをおすすめします。

また、財産を相続したものの使い道に困っている方も、困っている人の役に立つ方法を検討してみてはいかがでしょうか。