ホスピスでのケアと遺品整理の関係
延命治療から死の受け入れへと、ホスピスケアはその意味を変化させてきました。
病などを原因とする死であれば、それに直面した人は身体的な苦痛を覚えていることも少なくありません。
しかし、それ以上に多くの方が感じるのが精神的な苦痛です。終末期のケアにおいては、この精神面での苦痛をいかにして取り除くかが重要となるとされます。
ここでは、精神のケアの一環としての遺品整理とホスピスケアの関係について、解説していきます。
1.ホスピスとは
(1)ホスピスの成立と歴史的経緯
中世ヨーロッパにおいては、教会が病に倒れた巡礼者のケアを行うこともありました。
そこから転じて、看護施設をホスピスと呼ぶようになったのです。
19世紀、修道女マザー・メアリ・エイケンヘッドによってアイルランドのダブリンに建てられたホームが、ホスピスの元となったといわれています。
また1967年、シシリー・ソンダース医師がサウスロンドンの聖クリストファー病院に設立したホスピス病棟は、ホスピスの世界的な広がりの先鞭をつけました。
(2)日本でのホスピスの広がり
他方、日本初のホスピスは1974年、大阪市の淀川キリスト教病院にて開設されました。これは院内に併設されたものですが、独立病棟としてのホスピスでは1982年、浜松市の聖隷三方原病院の聖隷ホスピスが初となっています。
さらに、完全独立型のホスピスとして初めて設立されたのは神奈川県にある日野原ピースハウス病院であり、国立のホスピスとしては1987年、千葉県松戸市に設立された国立療養所松戸病院が初です。
なお、国立療養所松戸病院は1992年に柏市の国立がんセンター東病院へ統合され、現在では松戸市立福祉医療センター東松戸病院となっています。
(3)現在のホスピス
欧米での名称は、「ホスピス」という言葉に伴われる死のイメージを避ける意味もあり、「緩和ケア」(palliative care)へと変わりつつあります。
また元々建物などを表す言葉ではなかったホスピスですが、近年では終末期ケア(ターミナルケア)やその施設をも含む広い概念となっています。
2.ホスピスにおける緩和ケアとは
(1)緩和ケアの内容
緩和ケアとは、肉体の治療を目的とするのではなく、末期の病気に伴う様々な苦痛を和らげるためのケアをいいます。
緩和ケアの内容としては、次の通りです。
まず苦痛を緩和しつつ、自然な死への意識付けを行います。
それと共に日々の生活において、穏やかで肯定的に過ごせるようサポートします。
また、本人だけではなく家族へも、カウンセリングなどを通じて死の受け入れ態勢を整え、亡くなった後のフォローを行うのです。
(2)緩和ケアの提供者と場所
緩和ケアを行うのは、医師だけではありません。
看護師や薬剤師、ソーシャルワーカー、カウンセラーなどがチームとなって、様々な面から本人と家族をサポートします。
ケアの行われる場所も、病院(通常病棟・外来)に限られず、本人の希望や状況に合わせて緩和ケア病棟や自宅を選択することができます。
(3)終活と緩和ケア
終活とは、自身の人生の終わりに向けて行う活動を意味する言葉ですが、これは緩和ケアに通じるところがあります。
医師であるキューブラー・ロスが提唱した説によれば、死の受容プロセスには5つの段階があるとされます。
第1に死を認めず、自分は助かるのではないかと思い込む「否認」。
第2に死の理不尽さなどに対する「怒り」。
第3に命を延ばせないかと絶対的な存在に縋ろうとする「取引」。
第4に無力感に襲われ、絶望に囚われる「抑うつ」。
第5に生への希望から解放され、死を受け容れる「受容」。
緩和ケアにおいても、これらの段階を辿る本人に対してどのように接していくかが問われるのです。
3.緩和ケアと遺品整理
(1)心残りの払拭
死を前にした者は、身辺の整理を行う必要性があります。
これには生前整理や福祉整理などが挙げられますが、残される家族のために遺品整理の前準備を行うこともあるでしょう。
財産や人間関係を整理するのは、同時に自分のためでもあります。
いわば未練を解消しておくことによって、死への受け容れ態勢が整うのです。
緩和ケアをしていく上では、自分が亡くなった後に財産や家族がどうなるのかという心配をなくすため、財産の整理や遺言書といった面からのアプローチも行われます。
(2)遺産相続と生前整理
とりわけ生前整理は、遺族の財産トラブルの防止にも繋がります。
社会に生きる人間にとって、死は肉体や精神とだけ関係するものではありません。
財産面での整理も、死の受容には重要な関わりを有するのです。